中学生の頃から繰り返し読んできた、村上春樹の『風の歌を聴け』にこんなセリフがある。
「生きるためには考え続けなくちゃならない。明日の天気のことから、風呂の栓のサイズまでね」
登場人物の鼠が金持ちを嫌う理由として、「彼らは何も考えない」という文脈で語られるセリフだ。
天気という人智の及ばないことから、風呂の栓という普段は意識にものぼらない些細なことまで。
その振り幅の大きさが印象に残る一節である。
そして、一人暮らしを始めてからは、全くその通りだと実感せずにはいられない。
風呂の栓に関しては、実際、そんな経験をしたこともある。
今回は掛け布団のシーツに破れを発見し、「このまま放置すれば、いずれ惨事が起こる」と判断して買いに行くことにする。
一人暮らしは、先回りして手を打つことを考え、行動し続けなければならない。
生きるためには本当に考え続ける必要がある。
そんなわけで、近所のニトリへ行ってみると、目当てのものは果たしてあっさり見つかる。
素材にそれほどこだわりがあるわけではないし、今はタオルケットを間に挟んで使っているので、とにかく一番手頃なものを買うことに決める。
商品を物色するうちに、掛け布団シーツの隣に、敷布団用のシーツが並んでいるのが目に留まる。
敷布団の方にダメージはないはずだが、なんとなく「掛け布団とのコーディネートして、この際一緒に買った方がいいのではないか」と思えてくる。
掛けも敷きも1000円ほどで、ついでに買ってもそれほど懐は痛まない。
「この際、敷布団のシーツも新しい方がいいだろう」と判断し、ついでに買うことにする。
そうしているうちに、「両方替えるのだから、ついでにタオルケットも新しくした方がいいよな」とさらに判断が重なり、結局3点を購入してしまう。
帰り道、購入した品を手にしながら、「なんだかんだ言って、自分は何も考えていないんだな」という思いがふと頭をよぎる。