早朝の東京を歩く。
30年ぶりぐらいの寒波で、気温は氷点下まで下がっているらしい。
パンツの裾から冷気が入り、下半身を冷やす。
手袋の中まで寒さが染み入り、指がかじかむ。
そんな寒さのためか、意識せずに早足になっている。
本能的に体を温めようとしてるんだと思う。
だったら走ればいいのに、と側から見た人は思うぐらいのスピードで歩く。
そのスピードで延々と歩くうちに頭の中が真っ白になって行く。
考えが歩くスピードについていけず、その場に取り残される。
視界に入る色彩が意味をなさない。
音の波が鼓膜を震わすことができない。
右足が左足を追い越す前に左足が出ている。
そしてウォーカーズハイがやってくる。
未体験のトップスピードに乗る。
頭の中で何かが弾ける。
あ、離陸できる、と思う。
その瞬間、顔を空に向け、手を広げる。
もちろん人間の体は空を飛ぶようにはできていない。
いっきに我に返り、周りに誰もいないことを確認し、散歩を再開する。