房総半島横断に挑む。
自分は9時出発の電車に乗ったのだが、1両目には自分を含めて3人しか乗っていない。
1両目の前の席が空いていたので、なんとなくそこに座る。
昔の電車がこうだったのかは全く記憶にないのだが、運転席の反対側の壁が抜けていて、前の景色が見えやすくなっている。
また、運転手の声が筒抜けになっていて、出発する時や踏切、信号に差し掛かる際に声出し確認をしているのを確認できる。
「ああ、ちゃんとしているな」という安心感はある。
ただ、写真を見ていただければわかるが、運転席になぜか2人常駐していて、途中で交代とかもなく、ただ電車に乗っていた人がいる。
折り返し電車の運転手なのかもしれない。
何を話しているのかまでは聞き取れないが、その2人が談笑していて、かなり牧歌的である。
これは非難したいわけではなくて、なんとなくそんなゆるい雰囲気でもいい感じが小湊鉄道にはある。
車両が古いせいか、乗り心地はかなりワイルドである。
レールから外れるんじゃないかと思うぐらいバウンドするスポットが何箇所かあり、「がんばれサスペンション!」と何度か思った。
カーブがきつい箇所も結構あって、電車でここまで慣性を感じたのは久しぶりな気がする。
車窓から見える風景はかなり田舎で、ほぼ田んぼか山みたいな感じである。
「東京近郊にこんなに田舎がある」というのが房総の醍醐味である。
この日は雨で、靄った光景が広がっており、さらには稲刈りも終わり、季節も冬に差し掛かっていたため、なんとなく寂しい雰囲気ではあった。
ただ「条件が整えば相当綺麗なんだろうな」というポテンシャルは十分に感じられる。
気になったのは車窓から何度も見かけるコメリの店舗である。
房総を行くとコメリが折々で見られて、コメリを見ると「遠くに来たな」と思う刷り込みが出来つつある。
そして言い方は悪いが、こういうところでも店舗を構えるコメリの胆力に驚嘆する。
おそらく里見駅だったと思うが、空いたドアからショッキングピンクのジャンバーを着たおっさんが顔を覗かせ、「弁当ご購入の方いますか?」と呼びかける。
出発前、五井駅の改札のところで弁当を買いそびれていたので、「弁当」の言葉に反応したが、「いますか?」の後1秒に満たないタイミングで、誰の返答も待たずにおっさんはどこかへ行ってしまう。
迷う暇も与えてくれない。
追いかけて購入する気にもならず、発車を待つ。
その後なかなか発車せず、「誰かが弁当買ってるのかな?」と思っていたのだが、車掌が購入していた。
なぜそれがわかったのかというと、運転席と同じように車掌室にも壁がなく、ビニール袋を抱えた車掌が丸見えだったためである。
電車が発車すると、車掌は客席に座って弁当を広げる。
そして向かいの客と何やら談笑しながらおにぎりを頬張っている。
なんだろう、なんというか「むしろ小湊鉄道はこれでいいんだよ」と思った。
五井駅から1時間20分ほどで小湊鉄道終点の上総中野駅に到着する。
ここでいすみ鉄道に乗り換える手筈であるが、1つ問題がある。
いすみ鉄道、11月以降も運休継続 4日に脱線事故 安全性に課題、復旧長期化か | 千葉日報オンライン
ここまで伏せていたが、いすみ鉄道は脱線事故で現在運行していない。
下調べしていない弊害がここで出たわけである。
房総のことは気にかけているとはいえ、いすみ鉄道の動向までは追っていなかった。
五井駅で「代行のバスがある」という情報は得ていて、その際に代行バスの時刻表も手に入れている。
電車が到着した10分後にいすみ鉄道の途中駅である、大多喜までのバスが出る。
その後2時間半後にいすみ鉄道終点の大原まで乗り換えなしで行けるバスが出る。
乗り換えはダルいな、とは思ったが、駅から見える光景を見て、雨の中、ここで2時間半暇を潰す自信がなかったので、とりあえず大多喜行きのバスに乗ってみることにする。