ババアの優しい言葉

家を出る際に、ずいぶん久しぶりに隣の部屋のババアと鉢合わせする。

ババアはマジマジと自分を見てくる。

あまりの熱視線に挨拶も忘れ、しばらく見つめあってしまう。

もう少しで恋が始まる、というその間際に、ババアが「痩せた?」と聞いてくる。

そういえば最後に会ったのは自分がずいぶん太っていた時期であったような気がする。

「ああ、まあ痩せましたよ」

そう答えると、ババアは自分に近寄ってきて、「病気でしょ」とか言ってくる。

「いや、健康です」とはっきり言い切ったのだが、「いや、糖尿病だと思う」というわけのわからない決めつけをしてくる。

「糖尿病はね、豆腐ってあるでしょ? 豆腐をね、半丁、あと白菜をね、白菜の白いところ、根元を細かく切ってね、それを茹でて、ポン酢で食べるとね、治るから。私の知り合いもそれで直した。要するに湯豆腐。間違いないから」

怒涛の勢いで糖尿病の治し方をレクチャーしていただいたわけであるが、ツッコミしろしかなく、そもそも自分は糖尿病ではない。

ババアの思いの強さに、糖尿病でないことを否定するわけにもいかず、というかメンドくさいので、「試してみます」とだけ言って、ホウホウの体で逃げ出す。