コナンの影響で観られる映画が非常に限られる中、いい感じの時間に上映されている、という理由で観ることにする。
なので正直、観る直前までこの映画のことは認識していなかったし、アカデミー脚本賞を受賞していたことも知らない状態で臨む。
この映画は1960年代、カソリックとプロテスタントの宗教対立で暴動が起こったアイルランドのベルファストで生きる少年の話である。
映画が少年を描く時には大体イニシエーションの話になるのだが、この映画はそこまでその要素は強くない。
というのも、映画は全編どこか突き放した視点で演出されているためである。
主人公の少年、バディーは完全に「誰もが思い描くような少年」として描かれていて、突出した個性がない。
もちろんバディー自体は頑張ったり、何かに巻き込まれたり、楽しいこと辛いことに対面したりと色々なことがあるのだが、それに対するバディーの変化をあまり感じない。
それが悪い方向には出ておらず、映画全体が初期の村上春樹みたいな雰囲気で自分は好きである。
この映画のキモは「別れ」だと思う。
物語最後は大きく分けて2つの分かれがあり、物語はそこに向かって進む。
どちらの別れも結局のところ淡々としていて、それが最後のシーンでキュッとしまる。
その感じが味わい深い。
モノクロの映像もきちんと意味があるし、演出も手堅いと思う。
出てくる役者たちの演技も良い。
「過不足のなさ」という意味で近年見た映画の中では突出した出来だと思う。