行商に関する追憶

先日、果物の行商が来た際に思い出したのだが、幼少の頃、珍味の行商が年1度ぐらいの割合で来ていた。

自分は外で遊びまわるような子供ではなかったので、大体その行商とエンカウントする。

そして、おばあさんと一緒にその行商に付き合う。


売りにくる人は男だったり女だったりするが、総じて若い。

来るのは大体春で、今なら事情がわかるが、珍味会社の新人研修なんだと思う。

1番覚えているのは、ある年にやってきた女性のことである。

その人は何度もつっかえながら、自分が持ち込んだ商品を紹介する。

自分はそのつっかえが面白くて、つっかえるたびに笑っていたが、今思うとなんて残酷なんだろう。

今からでも謝りたい気持ちである。

その女性は最後まで商品を紹介したが、その後買ったかどうかまでは覚えていない。

なんとなくおばあさんは何点か買った気がする。

そして最後に、上司に言われたとかで「度胸をつけるためにここで歌わせてください」と1曲歌い出す。

これははっきり覚えているが「北酒場」である。

歌声は明らかに震えていて、また笑ってしまう。

当時の自分を殴りたい。


今は色々難しい時代なんで、こんな研修がもはやできるとは思わない。

実際自分が小学校を卒業する頃にはそういった行商も来なくなった。

おそらく営業の人たちなんだと思うが、飛び込みでどこかの家に入り、珍味を販売し、1曲歌うってかなりハードコアな研修だと思う。

自分には無理である。