とある事情で、とある人と会うことになる。
その人とは今回が初対面で顔合わせの意味もある。
お互いのスケジュールをすり合わせて時間を決め、場所をすり合わせて上野で会うことになる。
「じゃあ上野でお願いします」と言ったところ、「承知しました」と返される。
そしてちょっとだけ間が開いた後で、「漢字ではどう書いたらいいですか?」と向こうが言ってきて、思わず虚空を見上げてしまう。
ウエノって漢字ではどう書いたらいいですか?
あまりにも想定外の質問にどう返せば良いのか逡巡し、「冗談ですよぉ」とかあるのかと思ったが沈黙が続き、「あっ、これマジのやつだ」という空気を察し、上野の書き方を答えることになる。
「上下の上(うえ)に、野原の野です」
自分の人生で確実に口にしたことのない説明を行う。
一般的には「上野の上に上野の野です」という説明の方が通じる可能性だってある。
向こうは「ハイ」と明朗に答える。
その後何かあるのかと思ったのだが、何も無いので非常に恐縮しながら逆に聞いてしまう。
「東京に来て間もない感じですか?」
上野を知らない日本人がそこまでいるとも思えないので、これにしたって間抜けな質問であるが聞かずにはいられない。
漢字の書き方を聞いた理由は、「(声が)聞き取りづらかった」というつまらない答えだったのだが、新鮮な体験ができて満悦する。