劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』 公式サイト
ウマ娘が好きだから観に行く。
付け足すことは何もない。
行った劇場の中で1番座席数の多いスクリーンでの公開だったが、3分の1ぐらいの座席が埋まっている。(100人ぐらい)
割引デーであることを差し引いても、平日にこれだけの人が集まるというのはそこそこヒットしているんだと思う。
ただ見てからに「ウマ娘やっているんだろうな」という感じの人たちが集まっていて、アプリ未プレイの人たちへの訴求はあんまりうまく行っていない気がする。
自由気ままなフリースタイル・レースで、最強を目指して走り続けてきたウマ娘の少女、ポッケことジャングルポケット。
気まぐれに観戦した<トゥインクル・シリーズ>のレースで、フジキセキの走りに衝撃を受けたポッケは、自らも<トゥインクル・シリーズ>に挑むことを決意する。
劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』 公式サイト
という話である。
実質的な前作であるRTTTを観に行った時に「新時代の扉はウマ娘、もしくは実際の競馬を知らない人は訳のわからない作品になるのではないか」という懸念を抱いたのだが、大体そんな感じになっている気がする。
この映画は主人公のジャングルポケットの軌跡を追う話で、彼女が色々なライバルとの対決、尊敬するフジキセキとの関わりを経て、高みに登るというのが筋になる。
しかしながら、そのライバルやフジキセキの人物像が劇中深く語られることはなく、アプリや他の作品のストーリーが前提になってしまうので、完全に初見殺しになっていると思う。
具体的なことを一つ挙げると、自分はアプリでマンハッタンカフェを引き入れておらず、未プレイなので、お友だちと呼ばれる存在のことがよくわかっていない。
お友だちがいるということは一応知識として知っているが、それでもお友だちの件があったところで、少し「ん」となってしまう。
アプリをプレイしてしている自分ですら少し引っかかるところがあるので、未プレイの人にどれだけこの話が伝わるのかよくわからない。
未プレイの人で、この映画をみてアプリをやってみよう、というのは実際の競馬に相当詳しい人ぐらいだと思う。
逆に言えば、ウマ娘の前提知識さえあればこんなに楽しめる作品はない。
「観てよかった」と思える小ネタがこれでもかと観れる。
あのアヤベさんが完全にコメディーキャラになっていたのもよかったが、自分的にはマートレがかなりのツボであった。
「ああ、あれが公式なんだ」という謎の感動がある。
ストーリーに関しても、アグネスタキオンとポッケの関係性が思いのほかよく、史実であるタキオンの「たった4戦で引退」も、うまくウマ娘のストーリーとして落とし込めている。
タキオン引退(正確には休止)後もポッケに影響を与え続ける、という筋も納得いくものであった。
また自分はこの映画でフジキセキの株が爆上がりする。
史実の関係をうまく織り交ぜて、アプリでの寮長としての立場とはまた違った、頼り甲斐のある先輩の面が見られたのはすごく良い。
アプリでは描くことのできない、史実に則した怪我、引退で抱えた悲しみの部分も見られる。
映画として見るなら、フジキセキの経緯はもっと詳しく語るべきだと思うが、これを言い出したらポッケ以外の全キャラに当てはまってしまうので言っても詮無いことだとは思う。
それでもテイエムオペラオーに関してはもう少し覇王ぶりを描いて欲しかった。
ジャパンカップでの戦いはこの映画最大のカタルシスをもたらす部分だと思う。
アプリで知識はあるとはいえ、オペラオーの強者ぶりの描画が乏しいので、打ち倒した部分は若干物足りなく感じてしまう。
ここは少し残念である。
また、アニメとしての面白みはかなりある作品だと思う。
特にレースシーンはアヴァンギャルドの領域に足を踏み入れた演出になっていて、RTTTからの進化を体感できる。
また「プリティーダービー」を冠する作品とは思えないほど、ホラーっぽい作画が散見され、マンハッタンカフェに関しては「こんなの見せて良いのか」と思えるほどの表情を見せる。
演出面に関しては、かなり攻めているな、という印象である。
全く万人におすすめできる映画ではないのだが、ウマ娘を齧っている人であればこんなに楽しめる作品はない。
もうしょうがないことであるが、2時間で収まるような話では全くなく、全体的にダイジェスト感があるが、アプリを補完する作品であればそれも許容できる。
この映画はウマ娘をプレイしている人たちの祝祭で、それに参加できることは喜びである。