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その声のあなたへ | 公式サイト

相変わらず観たい映画は特になく、会社帰りに手っ取り早く観られる映画を物色していたところ、「声優 内海賢二のドキュメンタリー」という今まで考えたことがない角度の映画にエンカウントする。

自分は内海賢二の声を浴びるように聞いてきた世代ではあるが、その生涯とか人物そのものにも1度も興味を持ったことがない。

非常にそそられ、すぐさまチケットの予約を行う。


内海賢二 - Wikipedia

Wikipediaの出演リストを見ればわかるが、今物心ついている人でその声を聞いたことがない人はいないんじゃないかというぐらいの声優である。

聞けば1発で内海賢二とわかる特徴的な声でありながら、それでもあまりにあまねきため、特に意識することがない、という声優としてある種の境地に達した人だと思う。

この映画はその内海賢二の人柄とか人生を追ったドキュメンタリーだと思っていたのだが、全体的に主題があまりにもぶれすぎていて、ちょっと見辛い映画である。

人柄に関しては中盤にパートナーの野村道子さんが出てからは面白くなってくるのだが、そこまでは声優の歴史について語りたいのか、声優という仕事について語りたいのか、内海賢二の人柄を語りたいのか、経緯について語りたいのかさっぱりわからない。

神谷明は主に自分の仕事について語っていたり、内海賢二の若い頃の話の後に野沢雅子が声優の勃興期について語っていたりして、全然内海賢二にフォーカスが合わない。

生涯に関しても、住み込みで喫茶店で働いた話の後に、突然劇団の話が出てきたりして、その間の経緯が語られないため時系列があやふやになる。

時系列をしっかり整理して、内海賢二と関連のない話はばっさり切るべきだとおもう。

大物なのでカットできなかったという事情はありそうだが、完全に蛇足である。

これは編集が悪い。


とにかくまずいと思うのは、雑誌のライターと思わしき人が内海賢二を追う、という劇映画の要素である。

そのためインタビュアーの存在が常に画面にある、という構造である。

出演者の話を聞いているインタビュアーをどういうふうに受け入れたらいいのかよくわからない。

この映画のインタビュアーはフィクションの領域にいて、それが見切れることでインタビュイーとの断絶が生まれる。

なのでせっかくのインタビューが真正面に受けられない感じがする。


さらにまずいと思うのがこの映画のエンディングで、内海賢二のドキュメンタリーであるのなら、このエンディングは最悪であり、禁じ手だと思う。

100歩譲って劇映画として捉えてもパッとしない終わり方である。

取材対象を作り手の想像で描くことはよくない。


ところで、この映画で戸田恵子が着ていたセーターが素晴らしく、それが気になって最初の方の話を聞きそびれてしまう。

あれ欲しい。