かなり前の話になるが思い出したので書き留めておきたい。
会社帰りに通りかかるラーメン屋があって、そこはいつ見ても客がいない。
平日は毎日その店の前を通りかかるのだが、客がいないことに気がついてから3ヶ月ほど注視していたが、やはり客がいたのを見たことがない。
そのころの会社は残業があり、その店を通りかかるのは20時少しすぎぐらいだったのだが、客がいないことがおかしくない時間ではない。
あまりにも不可解なので、ついに食べてみることにする。
店に入るとその日もやはり客はいない。
すぐさま若いお姉ちゃんがやってきて、席を促される。
水とおしぼりを持ってきて、注文を取る。
1番オーソドックスそうなラーメンを頼み、お姉ちゃんが厨房に控えるマスター(らしき人)にオーダーを通す。
お姉ちゃんの愛想は良い。
店内は清潔で、トイレも綺麗である。
マスターは黙々とラーメンを作り、提供される。
手際は悪くなく、常識的な時間で提供される。
醤油の背脂ラーメンであったのだが、普通に美味しい。
むしろこのクオリティーだったら、自分の夕食ローテーションに組み込んでもいいかもしれない。
値段は安いわけではないが、妥当である。
なんでこれで客がいないんだろう? と訝しみながら、勘定を済まそうと頭をあげると、奥の厨房で店員同士がチューをしている。
力が抜け、体勢が崩れ、立ち上がろうとしていた体は再度椅子に収まる。
とりあえず見なかったことにして、レジ前に移動してから「すいません」と声をかける。
お姉ちゃんは何事もなかったかのように、奥から出てきて会計を済ます。
その時のお姉ちゃんの眩しい笑顔が忘れられない。
自分はなんとなくもうその店に行かなかったし、結局のところその後すぐに閉店していた。